●『昭和初年のインテリ作家』・・・広津和郎(ひろつ・かずお)の短編小説集。43歳の時の作品。昭和9(1934)年、
改造社から発行された。表題作「昭和初年のインテリ作家」は当時の馬込作家たちがモデルになっている。
へー、広津和郎はこんなのも書くんだ、と感心した。戦前の暗黒時代に危険を冒してプロレタリア派の作家を支援したり、戦後は、かの松川事件(下記「広津和郎について」を参照)をペン一本で戦い抜いたり、そんな彼だから強面のバリバリの社会派かと思っていた。社会派には違いないのだろうが、この短編集に集められた作品は、ダメな社会を告発するというよりは、むしろいろいろ訳ありな人たちに寄り添うといったスタンスだ。
本来、人間なんてものはろくなもんじゃないし、人生にはいいことばかりがあるわけじゃない。むしろつらいことの方がずっと多いのかもしれない。食っていくだけで本当に大変で、病の夫の薬を得るために妻は身を売り、男は今日の米を得るために別れた妻に頭を下げたりする。人の夫婦の子どもを生む女の話もあれば、父親の元であたら青春を不完全燃焼させている娘さんも出てくる。
そんな人間の悲哀が見つめる目が温かかったり、ユーモアがあったり。社会派作家の一面、というよりは、このように“人”が好きだからこその社会派なのだろう。
『昭和初年のインテリ作家』を読むには
『昭和初年のインテリ作家』(改造社 文芸復興叢書
21 昭和9年〕
などで読むことができる。全集に収められていることもある。
■『昭和初年のインテリ作家』が読める図書館
・国立国会図書館→( を所蔵)など
広津和郎について
多額の借金を円本で返済
明治24年(1891)年 12月5日、東京牛込で生まれる。父親は、永井荷風が弟子入りを申し込んだほどの小説家広津柳浪。
早稲田大学在学中から翻訳で生活の資を得ていた。大正6年(26歳)、「神経病時代」で認めらる。大正12年(32歳)、『武者小路実篤
全集』の出版を目的に芸術社を起こすが、極端に凝った造本で採算が合わず、失敗に終わる。その時に抱えた負債を返済するために大森書房を設立するが、またもや失敗。多額の負債を背負った。しかし、その後の円本ブームで波に乗って、無事返済。円本に取り上げられたか否かが当時の小説家の明暗を分けた感があるが、広津は“明”の方へ。
昭和26年(60歳)、カミュの『異邦人』を巡って中村光夫と論争した。
渾身の松川裁判闘争
昭和24年の電車転覆事故「松川事件」。国鉄の大解雇に反発した思想的な犯行とされ、20名の組合員(主に共産党員)が起訴され、第一審において全員に死刑・無期懲役を含む有罪判決がおりる。広津は判決に疑問を持ち、第二審を傍聴、裁判記録を検討し、『松川裁判』(筑摩書房 昭和30年〜 64歳〜)、『松川裁判』(中央公論社 昭和33年)、『
松川裁判の問題点』( 中央公論社 昭和34年)で記録・考察を重ねる。そして被告の救援活動においては10年にもわたってその中心に立った。松川事件は、最終審議において逆転判決となり、20名の被告は全員無罪となってフィナーレを迎えるのであった(昭和36年)。
昭和43(1968)年9月21日、76歳で死去する。墓所は東京の谷中霊園(
)。
広津和郎と馬込文学圏
〜 休息、そして2度目の失敗〜
大正15年(35歳)、銀座のカフェ・ライオンで給仕をしていた松沢はま(松沢太平の妹)を連れて馬込文学圏入り。馬込文学圏には知り合いの、芸術社の社員をしていた間宮茂輔や、義兄の松沢太平がいた。はじめ馬込第二小学校の裏門近く(南馬込2丁目)に住み、その後、同じく南馬込2丁目の少し高台の方に移動した。
馬込文学圏では、麻雀、絵画、魚釣り、キャッチボールに熱中し、また書斎に尾崎士郎、宇野千代、国木田虎雄、吉田甲子太郎、保高徳蔵らを招いては文学談義に花を咲かせる。昭和2年(36歳)には仕事場を菊富士ホテルに移し、旺盛な執筆活動を再開した。
昭和4年(38歳)、芸術社の負債返済を目的に大森書房を設立。『日本将棋大系』の刊行を企てたが、これも失敗。
昭和5年(39歳)、馬込から世田谷に転居。広津の馬込文学圏時代は、4〜5年となる。
参考文献
●『文壇資料 馬込文学地図』
( 近藤富枝 講談社 昭和51年)P.34-44
●『馬込文士村ガイドブック』
(大田区立郷土博物館 平成8年)P.58-59
●『大田文学地図』
(染谷孝哉 蒼海出版 昭和46年)
●『座談会 昭和文学史 (一)』
(井上ひさし・小森陽一 編 集英社 平成15年) P.56-66、P492
参考サイト
●早稲田と文学/広津和郎→
●文学者掃苔録図書館>広津和郎→
●狭山事件-最新情報/松川事件→
このページへのパス
http://www.designroomrune.com/magome/k/kazuo/kazuo.html
※当ページの最終修正年月日
2008.2.14
|