●『VOU』・・・バウ。北園克衛(きたぞの・かつえ)主宰の芸術誌。昭和10年創刊。160号(昭和53年。北園の没年)まで発行される。田村隆一や黒田三郎らも参加した。
最近、あの独特なイラストで有名なビアズリーが優れたブックデザイナーだったことを知った。小説家の堀 辰雄が自身の小説『聖家族』に卓越な装丁を施したことだったら、だいぶ前から知っていた。そして今回、詩人の北園克衛が「雑誌レイアウトの礎を築いた、2人の巨匠」の一人であることを知って、少なからず驚いている。
北園は馬込文学圏に長期間(20年間ほど)住んだ、“馬込文学圏の重要人物”の一人なのだ。だから、それだけに、雑誌レイアウトを生業にしている私が、彼のレイアウターとしての偉大な側面を知らなかったことは、かなり恥ずかしい。恥ずかしというより、なぜもっと前に知らなかったんだろう、という悔恨に近いものがある。「北園克衛は自身の詩集の装丁も手掛けた」程度には知っていたが、まさか「礎を築いた」「巨匠」の一人と讃えられる人物だったとは・・・(※1)
さっそく北園が主宰・編集した芸術誌「VOU」を一冊取り寄せてみた。昭和35年(1960)発行の第78号。そして、それを手に取り、また驚いているというしだい。こんな涼しいデザインが、今から50年も前からあったとは・・・
ページを繰ると北園の目を経ただろう詩や写真や評論が並ぶ。この号には北園の作品はなかったが彼の目が、表紙から裏表紙にいたるまで感じられる。抒情を排したイメージの世界。「白」や「丸」や「四角」なる言葉が脳裏に明滅し、静かな美術館で抽象絵画を眺めているような、そんな安らぎがやってくる。
北園は、「意味によって詩を作らない」で「詩によって意味を形成する」ことを目指したという。“意味”がない。よって“感情の叫び”もなければ、押しつけられる“説明”もない。“意味”を形成するのは、“詩”に向き合う読者個々人に属することなのだ。だから、これらの“詩”が並ぶ「VOU」の誌面からもつとめて“意味”が殺ぎ落とされる。そういうデザインなのだと思った。
意味や配慮のあふれる、そして時に、それに息苦しさを感じる現今、北園克衛のデザイン思想からなる「VOU」は一抹の清涼剤になろうか。
『VOU』を読むには
多摩美術大学図書館内の北園克衛文庫に全160号が所蔵されている。日本近代文学館にもかなりの号数そろっている。(「おすすめサイト」を参照→)
北園克衛について
実験的な詩を作る
明治35(1902)年10月29日、三重県伊勢市で生まれる。本名橋本健吉。新聞記者を志して上京、中央大学経済学部に学ぶ。在学中、萩原朔太郎・室生犀星などを読んだ。関東大震災を機に奈良へ転居し、彫刻家の兄(橋本平八)と仏像の研究に熱中する。大正末から昭和にかけて、日本にも未来派・表現派・ダダイズム・シュールリアリズムといった新しい思潮が伝わるが、その影響を受けて前衛詩の先頭に立った。バウハウスの造形理念の影響も色濃い。「GE・GJMGJGAM・PRRR・GJMGEM(ゲエ・ギムギガム・プルル・ギムゲム)」「MAVO」といった同人誌・文芸誌に詩や小説を発表。言葉が形作る視覚的効果を利用した実験的な作品を発表。昭和4年には初の詩集『白のアルバム』を上梓する。
あらゆる分野が詩とリンク
昭和10年「VOU」を創刊。北園の美意識で濾過された詩・美術・音楽・映画などの記事が並ぶ。昭和25年(48歳)から写真の発表。後に写真によって詩を表すプラスティック・ポエム(造形詩)なる方法に至った。代表作とされる『単調な空間』(昭和34年)は海外の作家からも注目された。詩・美術・イラスト・写真・エディトリアルデザイン・グラフィックデザイン・短編小説・8ミリ映画はリンクしたものとして捉えられていた。武満 徹も北園の影響を受けたという。
昭和53(1978)年、肺癌によって76歳で死去する。墓所は祥雲寺(東京都渋谷区広尾)(
)。
北園克衛と馬込文学圏
昭和11年〜18年の『文学年鑑』に記載の住所は、大森区馬込町西1-1649。現在郷土博物館が建っている坂を臼田坂の方に少し登った辺り(南馬込5丁目-12番地辺り)。昭和9年(33歳)から昭和30年代まで20年間以上、そこに住んでいる。
同じく戦時中も馬込文学圏にいた人に山本周五郎(南馬込1丁目)がいるが、どの程度の付き合いがあったかは分からないが互いに言及した文章を残している(※2、※3)。
馬込文学圏の北園克衛関係地図→
参考文献
●「pen」2006.4.15号(No.175)
特集:「雑誌のデザイン」
(阪急コミュニケーションズ) p.70-71 ※1
●『大田文学地図』
(染谷孝哉 蒼海出版 昭和46年)
P.94-95
●『馬込文士村ガイドブック(改訂版)』
(東京都大田区立郷土博物館編 平成8年)
P.35
●『馬込文士村の作家たち』
(野村 裕 昭和59年)P.80-85 ※2
●『山本周五郎 馬込時代』
(木村久邇典 福武書店 昭和58年)P.216 ※3
●『大森区詳細図』
(東京日々新聞 昭和10年)
おすすめサイト
●北園克衛文庫→
※文庫の所蔵リスト(詩集の表紙や自筆原稿の写真を見ることができる)や年譜や関係エッセイなど。
●北園克衛.COM→
※『若いコロニイ』『黒い火』『白の断片』『空気の箱』などの詩集が読める。
●文学者掃苔録>北園克衛→
※北園の墓に詣でている。彼の思想を簡潔に表している。
●日本近代文学館→
※北園の所蔵していた雑誌が全て寄贈された。「VOU」も大部分保管されている。
●松岡正剛の千夜千冊>『ボン書店の幻』内堀 弘→
※「VOU」の前身、詩誌「マダム・ブランシュ」の発行人鳥羽 茂とボン書房について。
●三重図書館>文学コーナー>常設展示「北園克衛」→
※自筆の原稿や少部数発行の詩集などが展示されている。
●フリー百科事典「ウィキペディア」>北園克衛→
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※当ページの最終修正年月日
2007.5.2
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