といっても「エッチ」のことではない。
大学のギターサークルにいたHのことである。
誰しも、尊敬できる人を5人くらいは数えることができるものだろう。
「私にとって、Hは、まさに、そういう一人である」といった話だ。
社会人になってからは一度も会っていない。
だから、私の中のHは20歳前後の青年のままだ。
でも、その青年を、今でも私は尊敬している。
Hはいつもフツーのジーパン(色が落ちているとか、意図的に穴が空けられているとかいったものではなかった)に、
上はいつも白のワイシャツだった。
なぜ白のワイシャツなのかといえば、
おそらく、高校の時、制服の下に着ていたものをそのまま使っていたのだろう。
つまり、オシャレけのないやつだった。
のっぽのHがそんなカッコでいつもギターを抱えている、
そんな姿ばかりが思い出される。
Hがギターを自分で作っているという噂が流れた。
「今、Hはギターのネックの部分に取りかかっている」とかいう制作進捗の様子は、
サークルのなかでそれとなく話題になっていた。
そしてとうとう、夏合宿の時にHがその自作ギターを持ってきた。
ちょっと見は、変哲のないギターだった。
だれが気を利かせたのか、
Hのギターのお披露目の時間が設けられた。
Hは大切そうにそのギターを抱えてみんなの前に出てきて、
ちょこんと頭を下げ、
おもむろにアルベニスの『アストリアス』を弾き始めた。
驚くほど柔らかい音だった。
その柔らかい音が、次第に激しくアルペジオを上りつめていく。
予想を遥かに超えるものだった。
弾き終えた後、一瞬、みんな拍手するのすら忘れているふうだった。
しばらくして、一人が「ブラボー! ブラボー!」と叫び、
それを合図に、みんなも我に返って激しく拍手し始めた。
Hのギターの完成と、そのギターにこめたHの思いを心から祝福したい、
みんなそんな思いだっただろうと思う。
そんなHと、Hのギターのことを、今でも思い出す。
Hはあこがれである。
また、思い出すと何かむち打たれるような、そんな気もする。
そんな存在でもある。 |