中学の時、アンちゃんという体育教師がいた。
アンちゃんに関する情報は、
小学校6年生になると密かに話題に上るようになる。
真っ赤なジャージに身を固め、
目には黒々としたサングラス。
まだ見ぬとっても恐い先生に、
子どもたちは中学に入る前から震え上がる。
中学に入学した。
そして、 初めての体育の授業の時のことだ。
私は、恐いということは知っていたが、
それでも少し甘くみていたようだ。
始業ベルが鳴り終わっているのに体操の列に加わっていなかったのだ。
「トイレにいっていた」という大義名分があるので
よもや叱られることはあるまいとタカをくくっていた。
が、集団はすでに規律正しくラジオ体操に熱中しているではないか。
そして、アンちゃんはというと、
はるか遠くに立っている。
これだけ距離をとっていても、集団に十分威圧感を与えているのだ。
はっ! 静かに私たちに向かって(トイレで遅れたのは私の他に2〜3名いたと思う)、
手招きしているではないか!!!
背中を冷たいものが走ったがもう遅い。
ギクシャクした動きでアンちゃんの元へ行く。
「どうした?」
私は、もつれる舌で、
「ト、トイ・・・」
最後までは言わせてくれなかった。
タンコブを1つもらった。
と、とっても恐い先生だった。
間違っても「先生、先生」などと馴れ親しむ対象ではなかった。
でも、アンちゃんのことは好きだった。
後から聞いた話だが、アンちゃんは、父母からの信頼も絶大だったという。
あの頃の父母は「先生がひっぱたいたから・・・」うんぬんで騒ぐことはあまりなかったと思う。
もっと別見方で、先生を評価していたのだと思う。
そうそう、中学に入ってしばらく経ったある日、
廊下でばったりアンちゃんに会ってしまった。
逃げようと思った。が、突然言われた。
「おう中野、今度俺とハードルで競争しよう」
どうやら、私の前の授業でのハードルの飛び方をほめてくれているらしい。
この言葉を思い出すと、今でも誇らしい気分になる。
アンちゃんは、今でも、私の先生だ。 |