この小池真理子氏の小説『欲望』は、始めから、三島由紀夫世界と随所でリンクしていた。二人の人物を強く結びつけるのが三島由紀夫の作品であったり、ある男が三島由紀夫を偏愛し南馬込の三島邸とそっくりの家を新築したり、そして後に彼が失明したり、家が焼失したり、また、ある人物のこの世からの去っていき方といい、直接・間接に三島由紀夫やその作品を連想させる箇所がいろいろあった。『欲望』の中には三島世界が入れ子になっている、と言っていいかもしれない。
だから、この『欲望』は、三島由紀夫の『仮面の告白』『金閣寺』『豊饒の海』あたりを読んでから読むと、その面白さが倍増するかもしれない。いや、『欲望』を読んで、三島作品に凄さを感じてから三島作品を読む、という進み方もあるかもしれない。
そんな『欲望』の最終章にさしかかった時、結末が予感された。
「プラットホームも改札口も真新しく、広々とした駅だった。共に降りた乗客は、私を含めて十数人しかいなかった。人の話し声も聞こえない、ただ、日ざかりの中、遠くで鳴いている油蝉の声と、前を行く乗客の靴音がかすかに聞こえるだけの、静かな、まどろむような駅の佇まいである。」(小池真理子『欲望』より)
この光に満ちた、でも音がどこか遠くからしか聞こえてこないような雰囲気には覚えがある。それは、まさに三島由紀夫の『豊饒の海』の最終巻「天人五衰」の最終場面と符合するように思えた。「天人五衰」での一人の男が一人の女性を訪ねる場面は、ここではそのまま、一人の女が一人の男性を訪ねる場面に置き換えられているようだった。三島由紀夫の「天人五衰」の絶望的で、また美しく静かな最終場面へと、この小池氏の『欲望』の登場人物も向かっていくのか・・・
『欲望』について
小池真理子の小説。直木賞受賞後2年を隔てて、平成9年7月、新潮社より刊行された。官能を超える精神のオルガスムスが描かれている。文芸評論家の池上冬樹氏が「三島文学を継承した、比類なき美しさをもつ現代文学の古典」と絶賛している。平成12年同社にて単行本化。平成17年には映画化(篠原哲夫監督)。
『欲望』と馬込文学圏
小説の中の袴田という人物は、三島由紀夫の美学を愛し、川崎市多摩区の外れ(宮前区よりの生田緑地の辺り)に、馬込文学圏(南馬込)の三島邸とそっくりの邸宅を造る。この邸宅を舞台に6人の男女の情念が複雑にからみ合う。また、小説の中の正巳の家は馬込文学圏(池上)で造園業を営んでおり、主要な3人の人物は皆、大田区(馬込文学圏も大田区)の公立中学の同級生で、その中学校時代のこともいろいろ出てくる。
作家別馬込文学圏地図「小池真理子の『欲望』」→
小池真理子について
昭和27(1952)年10月28日、東京で生まれる。出版社勤務、フリーライターを経て、エッセイ集『知的悪女のすすめ』(昭和53年 26)でデビュー。小説『恋』で第114回直木賞(平成7年)を受賞した。現在、夫の藤田宜永氏と軽井沢に住む。
参考文献
・新潮文庫『欲望』解説
(池上冬樹 新潮社 平成12年)P.484-493
参考サイト
・ウィキペディア/小池真理子→
・ウィキペディア/藤田宜永→
・ウィキペディア/直木三十五賞→
・eo映画・ドラマ/『欲望』板谷由夏×小池真理子トークショー→
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2008.5.6
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