明かりがまた一つ消え
尾崎士郎は自身の死期を悟って、集まった近親の者に自分が子どもの頃から好きだった歌を歌ってくれるよう頼んだといいます。その歌を聞きながら、尾崎士郎は息を引き取ったのだといいます。
しかし、それには後日談があって、
しかしその後で、「桜井の駅」は尾崎さんの親友である水野成夫氏の好きな歌で、尾崎さんが今はの際にうたつて貰ひたかつた歌は「白虎隊の歌」である事が判つた。
(中略)
もう殆ど口をきく気力もなくなつた尾崎さんは腹の中で「馬鹿ッ、違ふ違ふ。俺の好きな歌は『白虎隊の歌』なんだよ。俺は間もなく死んでしまふと云ふのに、何をトンマな間違ひをやつてゐるんだ」と、怒鳴り乍らもそこは生来の楽天家の尾崎さん「まあいいや、俺も随分トンチンカンな間違ひをやらかして来たんだから。俺は俺で先に行つた奴等とあの世で雪見酒でもやり乍ら、浪花節でもやらう」と、苦笑しながら昇天されたことと私は思ふのである。(関口良雄「尾崎さんの臨終」より ※『昔日の客』所収)
とのことです。尾崎士郎が逝き、馬込文士村の明かりがまた一つ消えました。44年前の2月19日の晩のことです。
[馬込文学マラソン] 尾崎士郎の『空想部落』を読む→
[馬込文学マラソン] 関口良雄の『昔日の客』を読む→
※当ページの最終修正年月日
2008.2.18
